700マガジン
フットゴルフワールドカップ ~その6~
2022.02.17
2018年12月9日(日)
アフリカ北西部の王国モロッコにて第3回となるフットゴルフワールドカップが開幕を迎えました。
決戦の舞台となるのはモロッコ第4の都市マラケシュ。
マラケシュは「神の国」を意味する名を持ち世界文化遺産にも登録される美しい旧市街を持つ古都でありながら政府が後押しするゴルフリゾートとして知られる都市です。
このモロッコ大会は前回アルゼンチン大会の倍以上、総勢503名(37か国が参加)が参加。
前回アルゼンチン大会から男子個人シニアの部と女子個人の部が新たに加わり大会規模の大幅な拡大が図られました。選手にとってはライバルが増えるばかりでなく大会規定の面でも非常に厳しい戦いとなることが予想されました。このあたりは後ほど詳しくお伝えしていきます。
我らが日本代表選手は総勢22名。男子個人の部14名、男子シニア(46歳以上)2名、女子個人の部2名、男子団体戦メンバー3名と元サッカー代表枠で選出された元なでしこジャパンの丸山桂里奈選手。男子個人の部では元鹿島アントラーズ等で活躍の阿部敏之が出場と非常にバラエティに富んだ顔ぶれとなりました。
栄光の日本代表選手をご紹介します。
冨沢和未選手 平野靖之選手
小林隼人選手 田中雄太選手
桑田寛之選手 木村勝選手
山縣祐人選手 八谷紘希選手
安村翼選手 新井晋選手
鈴木秀成選手 熊倉巧也選手
阿部敏之選手 軍司和久選手
大塚有尋選手 工藤誠司選手
阿漕洋子選手 前田春香選手
丸山桂里奈選手 辻本亮選手
高波瀬史人選手 三窪秀太選手
大会の舞台となるのはアル・マーデン(18ホールが2コース)とモンゴメリーの2つの会場。
アル・マーデンでは男子個人一般の部と団体の部、モンゴメリーでは男子個人シニアの部と女子個人の部の予選(ともに最終ラウンドはアル・マーデンにて)の競技が行われました。
透き通るような美しい青い空がとても印象的な舞台です。
大会の日程およびカテゴリーは以下の通り。
♦スケジュール
12月9日(日)練習日・開会式
12月10日(月)個人第1ラウンド
12月11日(火)個人第2ラウンド
12月12日(水)チーム戦(ベスト16、準々決勝)
12月13日(木)個人第3ラウンド
12月14日(金)予備日、VIPフットゴルフ・チャレンジ
12月15日(土)チーム戦(準決勝、決勝)
12月16日(日)個人最終ラウンド、表彰式、閉会パーティ
♦カテゴリー
<男子>
年齢制限:18歳以上(10月30日までの嘆願提出によりそれ未満の参加が認められる場合あり)
ラウンド数:4ラウンド(第2ラウンド後のトップ200以下は一次予選落ち、第3ラウンド後のトップ100以下は二次予選落ち)
・11月20日時点のワールドランクトップ20に自動出場資格
・使用コース:アル・マーデン・ゴルフリゾート
<女子>
年齢制限:18歳以上(10月30日までの嘆願提出によりそれ未満の参加が認められる場合あり)
ラウンド数:4ラウンド(第3ラウンド終了後、トップ25のみ第4ラウンド進出。予選落ち選手も最終日のプレーは可能。)
・11月20日時点のワールドランクNo.1に自動出場資格
・各国は2名の女子選手の登録が可能。
・使用コース:モンゴメリー、アル・マーデン(最終ラウンドのみ)
<シニア>
年齢制限:46歳以上(1972年、またはそれ以前の生まれ)
ラウンド数:4ラウンド(第3ラウンド終了後、トップ25のみ第4ラウンド進出。予選落ち選手も最終日のプレーは可能。)
・11月20日時点のワールドランクトップ3に自動出場資格
・シニア選手は男子、シニアのカテゴリー選択が可能だが両カテゴリーには参加できない。
・使用コース:モンゴメリー、アル・マーデン(最終ラウンドのみ)
<チーム戦>
- 16ヶ国で開催
- 各国10選手+3名の代替選手が参加
- 出場資格は第2ラウンド後のトップ4のスコアによって決定
- シングル4マッチ、フォアサム2マッチ、フォーボール1マッチのマッチプレー(18ホール)。交代要員3名の登録可能。
・ベスト16、準々決勝、準決勝、決勝を2日間で実施。
カテゴリーのところで触れている通り、この大会では、男子一般個人の部では4日間で行われる4ラウンドのうち第2ラウンド後のトップ200以下は一次予選落ち、第3ラウンド後のトップ100以下は二次予選落ちと2回ものいわゆる「足切り」があり、最終日まで生き残るにはこれらをクリアできる結果を残す必要があります。
厳しい戦いと言われるのはこんなところにも見られます。
まずは一次予選突破、そしてトップ100以内に入って最終日まで生き残る。
男子個人の部に出場の選手たちはこんな目標を立てていたことでしょう。
また、男子シニアの部、女子個人の部では、4ラウンドのうち第3ラウンド後のトップ25が最終ラウンドに進出とこちらも選手たちの目線はトップ25に見据えられていたことと思います。
この大会では、非常に心強いサポートがありました。
日本フットゴルフ協会オフィシャルトレーナー瀧田知良さん。
モロッコ大会において現地で選手のサポートを行った瀧田さん。前回アルゼンチン大会では現地に帯同できず遠く日本からのサポートという難しい状況の中必死に選手を支えました。
そんな瀧田さんはアルゼンチン大会後も事あるごとに選手を陰から支えてきました。
「アルゼンチン大会の後、フットゴルフがまだ徐々に広まってきたばかりの日本では、フットゴルフ選手としての先人達がまだ成長してなく、選手達が色々と戦い方について模索している最中でした。
そのため、選手達は「自分なりの戦い方」を各自で練ってみてはジャパンカップの場で試してみて修正していくことを繰り返していました。
私は大会の場では、選手のケアブースを設けて、希望する選手には短時間のケアやウォームアップをするほか、選手のその日のメンタル(自信の安定状態、視野やイメージ性や核心など)とフィジカル(体軸バランス、パワーバランス、変調)の注意点・留意点を伝えるようにしています。
ケアブースではその他に、大会までの間にメールや電話で色々と相談された内容と、大会の中での選手の様子を照らし合わせて問題点を表出させて、解消するためのヒントとなる捉え方やトレーニングの仕方を提案、次の大会の場でケアをしながら経過の確認とプレー中の様子からないようの修正を行なっており、選手達がスタートした後は、フットゴルフ協会の皆様と一緒に回りながら、選手とは異なった目線で選手達の現状を捉えて、少しでもヒントとなれることがあるようにしています。
アルゼンチン大会の後、個人的に問題点解消のカウンセリングとトレーニングサポートを行ったり、大会の場で様々な問題点の相談に乗るようにしていました。
代表に選出された選手の皆様は、自身で問題点を捉えることが得意な方が多かったのですが、ワールドカップはそういうことすら緊張と高揚で吹き飛ばしてしまうような大きな大会のため、大会までの間に「大会の期間にメンタルとフィジカルのリズムを崩さない方法」や「大会の最中に基本に立ち戻るポイント作り」のアドバイスをさせていただきました。
モロッコでは選手の試合前、試合中のメンタルチェック、フィジカルケアを行い、より選手のテンションが上がり冷静になれるようサポートしていました。
特に、試合中は選手達が気負って視野が狭くなっていないか、脱水や体軸のズレが無意識下で起こっていないかを選手の声からチェックして選手に伝え、選手が自身で修正できるようにサポートしていました。
試合後は夜中までかかってしまいましたが希望する選手のフィジカルケアを行ないながら、試合を振り返りながら翌日の戦略を練るフィードバックを行っていました。」
今回、そんな貴重なアドバイス内容も瀧田さんが披露してくださいました。
まずは大会までのトレーニングメニューです。
そしてコンディション作りとしてこんなアドバイスも。
「モロッコ出発前から、現地時間に合わせた生活時間のコントロールや、内臓機能を安定させるために粉味噌汁や日本食に関するものを持っておく事、身体感覚の修正を伝えていたので、現地では積極的にこれらを意識するように伝えてもいました。」
さらに大会中のサポートの様子を記した記録も披露してくださいました。本当に貴重な記録です。
「2018 W杯 トレーナー記録」
「12月8日
空港集合時
・選手の声から現状をチェック(メンタル・フィジカル・栄養面)して、機内での過ごしかたを選手ひとりひとりにアドバイス。既に変調がある選手にはその場で変調を減らすアプローチ
機内時
・タイミングを見て選手をまわりながら話し、声とアピールからフィジカルと血流レベルとメンタルレベルの状況をチェック。座りながらのストレッチ、広いスペースで選手の状況に合わせた他ストレッチアプローチを行う
現地到着
・到着ロビーにて選手と話し、フィジカルの状況チェック
・ホテル到着後は、アップランニングで血流と深層部を温めさせたうえで、声で確認して選手一人一人の状況に合わせたストレッチ順を指示(右臀部から/ 左大腿からなど)
就寝前
・声にメンタル面で不安定要素の見られた選手に、就寝直前までボールで細かいタッチ練習を支持(就寝中の脳整理でボール感覚を根付かせるため)。
12月9日
ホテル朝食時から会場スタート前
選手達との会話の時点で、声から今日のフィジカルとメンタルをチェック
留意点を出してアドバイス(重心、疲労コントロール、水分コントロール、先入観や落ち込みコントロール)
大会中、前半組(後半組同様)
メディカルの私は選手との直接会話はできないため、日本会長や日本キャプテンと同行、ちょっと大きめの声で会話をしてもらうところからメンタルとフィジカルの留意点を出し、会長やキャプテンの口を通して伝えてもらう。(それなら問題無し)。脱水、ハンガーノック、気負い、失敗の切り返しアドバイスなど選手ごとのポイントをチェックして回る
ランチタイム
前半組が戻ってランチするタイミング、後半組が開始前にランチするタイミングで選手のメンタルとフィジカルをチェック
前半組:怪我や身体状態のチェックとサポート、振り返り反省のまとめサポート
後半組:メンタル・フィジカルのアップサポート
大会後
選手の声を会話挨拶で聞いて回り、メンタルケア、フィジカルケアのサポートとアドバイス、明日のテーアポイントなどのチェック、寝る前のトレーニングポイントのチェックなど
就寝
12月10日
ホテル朝食時から大会会場前
朝の挨拶の時点でメンタル・フィジカルのチェック。先入観やイキ理立っている状態、自己嫌悪などの状態から持ち直すアプローチを指導
※女子・シニアは会場が異なるため、会場にてチェック。午前は女子・シニアの会場へ行き、午後から一般の会場へ
動画:丸山選手の変調を声からチェック(大腿後面、右足膝、両足首の変調を中心にクリアに)
スタート前に女子選手の全員写真。集中しすぎて追い込まれるメンタル状態に入っていたため、写真を撮りながら言い聞かせる「女子選手の中で三人は超可愛いから、コースごとに「よし、私は可愛い!」と口に出して」と指示。(しかめ面、前傾姿勢、硬直、コースリーディングの先入観などを無くさせるための、自己肯定を強化する方法)
スタートしてから、冷静に一つずつクリアにしてくこと、他国の選手間でギスギスさせないこと、先入観でなくラインを読むことができていた
大会中、後半組 一般男子会場
声から当日のメンタル・フィジカルの修正。冷静に、他の選手のことを意識せずに自分の決めたライン通りに確実に決めることを集中させる
ヒデ:-2、先日のプラス1、トータル-1」
写真 右から2番目:瀧田知良トレーナー
前回アルゼンチン大会も同様でしたが、この大会の開催地であるモロッコも日本から遠く離れた地であり、選手たちは日本から実に27時間かけての現地入りとなりました。
丸々1日をかけた移動に加え日本との時差は8時間。さらに慣れない海外での滞在のなかで臨む戦い。肉体的にも精神的にも大きな負担を強いられた中での大会となります。
そんな状況を見据えて大会前からずっとあらゆる面で選手たちをサポートし続けた瀧田トレーナー。
その思いはきっと「選手たちにワールドカップでベストパフォーマンスを発揮してほしい」という一念のみだったことでしょう。
選手たちにとっては本当に心強いサポートだったに違いありません。
「ホテルに着いた後は瀧田先生指導の下、軽いランニングやストレッチをして長時間の移動で凝り固まった筋肉や滞ったリンパの流れを元に戻す作業を行いました。
後腹膜リンパ節郭清手術をしてリンパの一部がない私の場合、普段からリンパの流れが著しく悪く、浮腫(むく)んでばかりなのですが、今日の浮腫みも相変わらずひどかったのでこのストレッチは大変助かりました。」(軍司和久選手/2018年ワールドカップ出場)
また、こうした大きな大会ではもうひとつ貴重な武器となるものがあります。
「経験」
このモロッコ大会に出場した22名の選手のうち10名の選手が前回アルゼンチン大会を経験しています。
そんな選手たちに前回アルゼンチン大会との気持ちや雰囲気や技術や日本チームとしての臨み方など違いが何かあったのかについて聞いてみました。
「個人的にはアルゼンチン大会からの2年間でどこまで国際レベルで成長出来たか、それを推し量る機会がある事にワクワクしていました。もちろん想いは人それぞれですが、『やってやる』という気持ちで臨んでいる選手が多かったと思います、2年前のアルゼンチン大会では何も出来ずに終わってしまいましたから。」(鈴木秀成選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
「前回大会には日の丸を背負うという気概はもちろんありましたが、フットゴルフというスポーツの経験が他の国とは雲泥の差があり、深いところというか濃い部分でこのスポーツを体現できていなかったと思います。もちろん日本チームとしても一致団結しようと盛り上がっていましたが、後々国際大会を重ねる毎にこのスポーツの深みに少しずつ入っていけたと思います。」(冨沢和未選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
「アルゼンチン大会では、まずは参加する事、World Cupとは何かを知るというだけに終わりましたが、モロッコ大会では、事前に団体戦の戦い方や、前日練習等での取り組み方が前回と異なり、しっかり心技体を作って挑めていた印象でした。」(田中雄太選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
「前回開催2016年1月から約3年が経ち、日本人選手のレベルは上がりましたが、この3年間に出場した国際大会でも感じていましたが、世界の方が日本以上にレベルアップしていた印象です。
マラケシュまでは長旅なので、前回アルゼンチン大会や国際大会で得た飛行機での過ごし方などを事前に共有したり、大会中はコース攻略法を話し合ったり、他の選手をサポートする意識が前回よりあったと思います。」(新井晋選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
気持ちの持ち方、準備、技術、リーダーシップ。
アルゼンチン大会からの3年間でアジアカップやワールドツアーのメジャー大会である「FIFG WORLDTOUR JAPAN FOOTGOLF INTERNATIONAL OPEN」など国内外の試合で経験を積んだからこそ成長した姿でこのモロッコ大会に臨んでいる選手たちですが、やはりワールドカップという舞台での10名の選手の経験は、初の出場となった12名の選手たちにとって貴重であり、頼りのなるものであったに違いありません。
また、この大会がワールドカップ初出場となった平野靖之選手からはこんなお話を聞かせていただきました。
「大会期間中は選手2名ずつの相部屋になるのですが、私はJリーグで長きにわたってご活躍され鹿島アントラーズや浦和レッズに所属していた阿部敏之選手と過ごす事ができました。
阿部選手は天才レフティーとサッカー界では有名ですが、天才である以上に凄く努力されて来た方と言う事に気付かされました。
寝る直前までトレーニングや身体のケアを行う姿を見て、サッカー界の最前線で闘ってきた方の裏の姿を見ることができました。
ご本人にお伺いすると「当たり前の事」と言ったお返事を貰ったのをよく覚えています。」
サッカーの世界で自分の身一つで戦い抜く厳しさを長きにわたって経験してきた阿部選手。
「常にベストなパフォーマンスを発揮するためにはどうすればいいのか?」
競技は違えどそんな阿部選手の姿はまたひとつ違った形の経験として日本フットゴルフ界にとって貴重なメッセージとなっています。
9日の開会式では出場各国の紹介と国歌斉唱のセレモニーがありました。日本フットゴルフ界にとってワールドカップで聞く2回目の君が代です。初めて君が代が流れたアルゼンチン大会のような大興奮は見られなかったものの、そこには歴史を重ねた落ち着きを感じ得ます。壇上で選手たちは君が代が流れる中、翌日からの活躍を静かに、そして熱く誓ったことでしょう。
「オープニングパーティーでまた各国の国歌斉唱を聞き、君が代を歌った時は国を代表してこの舞台に来れた事を改めて誇りに思いました。会場には顔見知りの選手も多くいて、また素晴らしい環境に緊張はほとんどありませんでした。」(新井晋選手)
「日本代表としての責任をより強く感じました。前夜祭で君が代とともにチームが紹介された時の誇らしい気持ちは忘れられません。」(大塚有尋選手/2018年ワールドカップ出場)
そして・・・
「試合前ミーティングの最後に、松浦会長からコメントがありました。フットゴルフを始めてからの経緯や、応援してくださる方々への感謝の話だったと思います。会長の言葉を聞いて心が燃えました!」(小林隼人選手/2018年ワールドカップ出場)
戦いへの準備は整いました。いよいよ運命の本番です。
結果をもとにその激闘の様子を振り返ります。
日にちが前後してしまいますがまずはこの大会フットゴルフ日本代表がワールドカップで初めて迎える団体戦の戦いから振り返ります。前回アルゼンチン大会では、参加26か国中8か国が参加できる団体戦に出場ができませんでした(個人戦の予選第1ラウンド終了後の各国トップ4選手の合計スコアで13位と上位8か国に入れなかった)。
この大会でも団体戦は出場国すべてが戦えるわけではなく、出場枠が広がったもののこの大会に参加の37か国中出場できるのは16ヶ国のみ。その出場資格は男子の部出場選手の第2ラウンド終了後の各国トップ4選手のスコアによって決まります。日本チームはその結果見事9位で出場を果たしました。
その決戦方式は以下の通り。各ホールで勝敗を決めるマッチプレー方式による7戦で行われました。
・1対1のシングル4戦
・各国ペアが一つのボールを交互に蹴って争うフォーサム2戦
・各国ペアがそれぞれのボールを蹴って良いスコアを採用して争うフォーボール1戦
の合計7戦となります。
日本チームの初戦の相手は同じく8位で出場を決めたヨーロッパのスロバキア。
そのスロバキアチームは当時のワールドランキング上位にランクインしていた選手が4人と前回アルゼンチン大会3位の元スロバキア代表が名を連ねる強豪です。
12月12日(水)。決戦の火蓋が切られました。
日本対スロバキア。
日本チームのラインナップは以下の通り。
・シングル戦出場
小林隼人選手
鈴木秀成選手
三窪秀太選手
熊倉巧也選手
・フォーサム戦出場
山縣祐人選手、安村翼選手、木村勝選手チーム
高波瀬史人選手、冨沢和未選手、桑田寛之選手チーム
・フォーボール戦出場
辻本亮選手、新井晋選手、八谷紘希選手チーム
心をひとつに。そして日の丸を背に応援にも熱が入ります。果たしてその結末は。
全7戦の結果、3対4で日本チームは敗れました。
戦いの様子を選手の皆さんに伺いました。
「ワールドカップという舞台で団体戦を戦うことはとても誇らしかったです。対戦相手のスロバキアには世界的に有名な選手がいましたが、過去の国際大会の経験もあり恐れることなく堂々と戦うことができました!」(小林隼人選手)
「日本代表として初めてとなる団体戦はチーム一丸となって臨めたと思いますが、相手もしっかり準備をした強豪国だらけ。スロバキアは個人の力としても非常に長けているメンバーも多く、残念ながら初戦で日本は敗退となってしまいました。」(桑田寛之選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
「シングル・フォーサム・フォーボールと異なる三つの戦い方でポイントを取り合うのはとても新鮮で、またフットゴルフというスポーツの楽しみ方の一つとしてとても奥深く、日本チーム全員で盛り上がり戦ったのを覚えています。この時の団体戦を期に今までのアジアカップなどとは違いもっともっと適材適所の選手起用や相手との相性などをシビアに考慮していかなくてはならないと誰もが感じたと思います。」(冨沢和未選手)
「全ての日本人選手にとってワールドカップの舞台でTeam Japanとして戦う初めての経験になりました。相手はヨーロッパの強豪国スロバキア。個人戦とは異なりチームへの影響がある事から、普段より緊張している印象を受ける選手もいましたし、逆に力を発揮出来ている選手もいました。
またチーム戦メンバーとして三窪選手、高波瀬選手、辻本選手が帯同してくれTeam Japanの為に自分の持っている力を存分に発揮してくれました。特に三窪選手は当時ワールドランキングで世界のTOP10に入っている選手とのシングルマッチで勝利してくれました。結果としては3-4で負けてしまいましたが、日本のフットゴルフ界として大きな一歩を歩んだと思います。」(鈴木秀成選手)
「スロバキアに敗れたが周りの戦況も意識しつつ、対峙している相手にどう勝つか、メンバーと一打一打話し合いイニシアチブを握りいい試合ができた。準決勝、決勝を間近で観戦すると、さらに悔しさが溢れ、個人、団体で必ずワールドカップでリベンジすると誓った。」(山縣祐人選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
左:山縣祐人選手 右:軍司和久選手
「厳しい言い方ですが、団体様の準備が全くといっていいほど出来ておりませんでしたので、初戦敗退は仕方ないという感覚です。しかしながら、団体戦の経験は今後に活かすことができ、現在日本の選手間では団体戦を想定した練習をしている選手も多いので、敗戦から学ぶことも多いと考えております。」(八谷紘希選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
「大会前に協会と選手で団体戦について意見交換を行いましたが、どのように団体戦メンバーを決めるか等の結論には至らず。更に3選手が団体戦メンバーとして選出され、この選手たちが優先的にメンバーとなるのか不明のまま大会を迎えました。
はじめてのワールドカップ団体戦の相手は強豪スロバキア。当時のワールドランキング上位にランクインしていた選手が4人と前回アルゼンチン大会3位の元スロバキア代表を擁した相手に善戦しましたが、前述の事、そして団体戦ルールを最大限活用できなかった事を考えると準備不足が敗因の一つだったと思います。
準備しても勝てなかったかもしれませんが、準備した上での結果であれば、次に繋がるヒントや改善がもっとあったんじゃないかと。一般カテゴリーの最年長で、一番長くフットゴルフと向き合ってきた自分が引っ張れなかったのかと。」(新井晋選手)
「初戦の相手は、個人戦8位のスロバキア。前回のワールドカップで3位になった元プロサッカー選手など、ヨーロッパの一流選手ばかりが名を連ねていましたが、個人的にこの日の為に様々な角度から色々なことを研究してきたので、負ける気はしませんでした。私がキャディについた組は、木村勝選手、山縣祐人選手、安村翼選手の三名と相手選手によるフォーサムの戦いでした。
今大会におけるフォーサムは、ホール毎にボールを蹴る選手を二名選び、その二人で交互にボールを蹴りながら相手よりも少ない打数で上がったホールを1ゴールとして数え、18ホールラウンドする中で相手よりも多くのゴールを獲得したチームが勝つ方式です。この方式だと、勝敗を左右するポイントは、どこのホールで誰がどの順番で蹴るかが重要になってくるのですが、三人ともに、サッカーで培った技術は素晴らしく、私が援護できる部分があるとすればコースマネジメントとゴルフの知識しかないということはわかっていたので、ティーグラウンドに立った時点で目に入った情報は全て伝えつつも、三人の意見を尊重し、同調することで自信を持って蹴ってもらえるような発言を心がけました。
狙い通り、自分がキャディとしてついた組は、勝たせることができましたが、他の組にまで勝利に繋がる有効なアドバイスをすることはできず。
結局、トータル3勝4敗で負けてしまいました。
勝てば世界一のイギリスとガチンコ勝負できただけに悔いの残る1日でした。次回のワールドカップでは、もっと団体戦に向けた取り組みや練習を増やしていき、ONE TEAMで戦いたいと思います。ちなみに今大会の団体戦フォーマットは、2日で4試合、午前午後で1試合ずつをこなす超ハードスケジュール。スロバキアに勝ったとしても、世界最強のイギリスチームと対戦して勝つ為の余力を残しておかなければならなかったわけで、世界を制するには技術だけでなく体力、そしてチームワークも必要になるでしょう。」(軍司和久選手/2018年ワールドカップ出場)
右から軍司和久選手、鈴木秀成選手、八谷紘希選手
充実感、悔しさ、そして後悔。
日本チームにとって初めてとなるワールドカップでの団体戦には選手の皆さんからたくさんの、そして様々な想いが伝わります。
フットゴルフは競技としては個人の戦いが基本としてありますが、時として「チーム」という顔を覗かせる場面があります。
前回アルゼンチン大会では個人戦で残念ながら予選通過出来なかった選手たちがキャディとして最終ラウンドに臨む選手たちと共に戦ったという感動的なストーリーをお伝えしました。
※フットゴルフワールドカップ~その3~アルゼンチン大会の様子はコチラ
↓ ↓ ↓
そしてこの大会でも選手たちは仲間のために一致団結して目の前のスロバキア選手たちにベストを尽くして戦い、惜しくも敗れました。彼らの戦いからは、人と人が共に一つのものに挑むとき、その思いは、力は、感動は何倍にも、何十倍にも大きくなっていくのだということを教えてくれます。
一方で団体戦優勝を誰より強く望んで挑んでいた世界の強豪国の選手たちの熱いながらも時に冷静な姿。当然なのかもしれませんが、そこには「準備」「戦略」「技術」そして「情熱」の融合がもたらす「強さ」が見えます。それは日本チームが勝ち進めなかったその後の団体戦の様子を伝えてくれた選手の声からも伝わってきます。
「チーム戦が始まる前日には、コースのテラスで各国のキャプテンや選手がミーティングをしている姿が見られました。イギリスチームからは、個人戦で好位置につけているベン・クラークの負担を軽くするなどの話が聞こえてきました。
ラウンドが始まると、アルゼンチンのキャプテンのハビエルは、風により難易度が高くなっているホールで、他チームのプレーも観察しながら、次から次へとやってくるアルゼンチン選手に風向きの情報や攻略法を伝えていました。ラウンド中は、各チームのキャプテンとキャディーのみが選手への接触が許されています。携帯電話でも連絡を取りながら、チーム全体の情報を把握し、指示を与えていたようです。
アルゼンチン・チームには、サッカーの代表キャプテンを務めたロベルト・アジャラ選手も所属していました。偉大な経歴を持つ選手が、今度はフットゴルファーとして国のために誠実に戦っている姿に感銘を受けました。
チーム戦はホール・バイ・ホールでポイントを取り合います。フライトの選手や、それを応援しながら帯同する各国の選手・スタッフが、仲間のビッグプレーに歓喜の声を上げる様は圧巻です。これが国と国の戦いかとあらためて感動するシーンでした。」(大塚有尋選手)
この大会の団体戦優勝国はフランス。フランス選手は個人戦での最終成績でもトップ10に最多3名が名を連ね、今大会での国としての総合力の高さが光りました。日本代表と同様に前回アルゼンチン大会では団体戦出場が叶わず、初の団体戦で優勝という快挙を成し遂げました。
「今回の会場はフランス協会が主催する大会で使用されたコースが使用され、謂わばホーム。ワールドカップ運営にも関与していたと聞いています。大会に専用シェフを帯同するなど、準備において余念がなかったようです。」(新井晋選手)
「団体戦で優勝したフランスは総合力が非常に高い印象です。ヨーロッパ圏の主要な大会であるキャピタルカップやフレンチオープンで優勝している選手を中心に誰が出ても高い水準で戦えるのが強みな印象です。もちろん決勝で戦っていたイギリスも同様でしたが、今回はフランスが勝ちましたね。」(鈴木秀成選手)
「団体戦に関しては、いわゆるホームとしての意地もあり、もちろん技術的に素晴らしいですが、 出場している選手について意思が統一されており、その上で絶対負けられないという気持ちをもって勝ち進んでいった印象です。また、もちろんフランスの選手は何度か会場となったアルマーデンゴルフクラブでプレーも経験しているため、コース分析、マネジメントも非常に重要な競技だなということを改めて感じました。」(田中雄太選手)
写真:団体戦優勝のフランスチーム
日本代表が今後団体戦において強くなるためにはどうすればいいのか。そんなヒントをこの大会に難しい立ち位置で臨んだ選手たちの戦いから紐解いていきたいと思います。その中の一人の選手に話を伺いました。
高波瀬史人選手。
辻本亮選手、三窪秀太選手と共にこの大会は団体戦メンバーとして出場しました。
左から高波瀬史人選手、辻本亮選手、一人置いて三窪秀太選手
「W杯モロッコ大会では、個人戦に加え団体戦が行われ、過密スケジュールの中で団体戦も勝ちに行くため、団体戦メンバーとして3人の若手が選出されました。3人に経験を積ませたいという日本フットゴルフ協会の思いあったと思います。日本は初戦スロバキアと対戦し、敗戦してしまいました。日本代表チーム全体として「チーム戦」の経験が少ないと痛感しました。自分自身においては、団体戦メンバーで選出されているにもかかわらず、緊張と力のなさで全く戦力になれず、チームの足を引っ張るばかりでした。僕のせいで負けたと言っても過言ではないと思っています。正直チーム戦終了時に、現地のゴルフ場のトイレで誰にも見られないようなところで泣きました。しかし、そのW杯からフットゴルフに取り組む意識や覚悟の変化が起き、自分自身変われたと思っています。」(高波瀬史人選手/2016年・2018年ワールドカップ出場)
スロバキアとの団体戦、高波瀬選手は冨沢和未選手、桑田寛之選手と共にフォーサムの戦いに臨みました。フォーサムは、ホール毎にボールを蹴る選手を二名選び、その二人で交互にボールを蹴りながら相手よりも少ない打数で上がったホールを1ゴールとして数え、18ホールラウンドする中で相手よりも多くのゴールを獲得したチームが勝つ方式です。
高波瀬選手によると、この試合、極度の緊張と自身の中のキックに対する不安感から体が縮こまってしまい、全くいいプレーが出来ないままラウンドが進んでいったということです。
そして4-6、4-7とビハインドを背負い、攻めないと勝てない状況でのミスにより積極性も失い、終盤は冨沢選手や桑田選手に任せきりになったままゴール数4-10で負けてしまったと振り返ります。
団体戦は一発勝負。負けたら終わりの戦いです。高波瀬選手たちがモロッコで臨む舞台はそんな大きなプレッシャーのかかる大舞台です。しかも団体戦メンバーの3名の選手には個人戦を戦うことはなく、「ここ(団体戦)しかない」なかで戦う舞台です。気持ちや体の準備が他の選手以上に難しい中での戦いだったものと想像できます。前回のワールドカップも経験した高波瀬選手だからこそ「自分がやらなければ」という責任感が足かせになってしまったのかもしれません。また、団体戦を勝ち抜いた国では、個人戦、団体戦ごとに別々のチームとしてそれぞれが戦略を練っての準備が図られていたということです。そうしたものと比較すると、アジアカップなどでの経験はあるものの、世界の強豪相手に勝つための準備や戦い方が足りていなかったのかもしれません。
「団体戦において、上位に入っている国は団体戦の練習をしっかりしてきているという印象でした。個人戦はストロークプレーなのに対して、団体戦はマッチプレーなので、戦略や戦術が180度変わってきます。その辺りを練習し、経験を積んできていると感じました。
個人戦でも上位に入っている海外選手は、積み重ねている経験が豊富で、メンタル面やコースマネジメントを含め、その辺りに大きな差を感じました。」(高波瀬史人選手)
そしてヨーロッパなどでは普段から団体戦での戦いが行われているということであり、海外の選手たちはそうした団体戦ならではのプレッシャーにも慣れているということも見逃せません。そこで繰り広げられる勝つための準備がしっかりと行われ周到な戦略が練られた中での戦い。それが世界基準の団体戦の戦いなのでしょう。
ただ、そんな基準があるとして、当時の段階でどこまでそれを極めることが出来たと言えるのでしょうか。
きっと出場した選手全員、人一倍の責任感や使命感を持って戦いに臨んでいて、出来る限りの準備やコミュニケーションを重ねて戦い、誰よりも勝利を目指していたことに間違いはないはずです。
決してすべてにおいて準備や戦略、技術が相手に負けていたわけではないでしょう。
それでも勝てなかったという事実。
選手の皆さんはその事実から、「勝ちたかった」という思いや「もっとやれた」という強い思いを抱くことで改めてその前段階にある「準備」の大切さを身に染みて感じた、ということなのかもしれません。
そしてその思いはひょっとしたらワールドカップでなければ感じられないものかもしれません。
日本代表が、選手の皆さんが前に進むために、そして強くなるためにこの苦く、貴重な経験はきっと生きることに違いありません。
一方で高波瀬選手は、「団体戦ならではの魅力や楽しみ方」を教えてくれました。
「団体戦はマッチプレー(1ホールごとの打数で勝敗を競い合う方式)。個人戦のストローク方式(18ホールの合計の打数で勝敗を競う方式)とでは戦略が変わってきます。ストローク方式では総合力が求められるため見えてくる「差」があることは事実ですが、マッチプレーでは1ホールごと、さらに言えば1打ごとの細かい戦略により相手より有利に立つ可能性が広がります。事実、三窪秀太選手は、1対1のシングル戦で6-5で勝利しましたが、相手は当時世界ランキング5位のトーマス・バルトコ。個人戦では勝てない相手かもしれませんが、戦術、戦略次第で強豪相手でも勝てることを証明してくれました。
そして、 W杯では正直「個人戦」より「団体戦」の方が盛り上がりました。見る側からしても「団体戦」の方が面白いし見応えがあります。今後フットゴルフの普及をより加速させるためには、「団体戦の導入」そして「映像の配信」だと思います!」
団体戦(チーム戦)というフットゴルフの中のまたひとつの「文化」。この「文化」がフットゴルフの魅力をさらに広げられる。そんなヒントになるようなお話です。フットゴルフがプレーをしていても、見ていても「楽しい」ともっと感じられるようになったらその魅力はさらに大きく広がる。さらにチーム戦が活性化することでチーム戦に勝つための選手のレベルアップや準備、戦略の強化が図られてワールドカップをはじめとする国際大会で日本チームが強豪相手に勝てるための環境を作り出すことにつながる。実際にすでに日本でもチーム戦で行われている大会があります。ワールドカップを通して選手たちのプレーの様子はもちろん、そうした「文化」が広まるきっかけになってほしい。そして誰かがその伝道師になること。伝える側としてそんな担い手にならなければという責任感を感じます。
たくさんの思いや感動をお伝えするフットゴルフワールドカップモロッコ大会編。
紙面が足りなくなってしましましたので今回はここまで。
次回は個人戦の激闘を追います。
どうぞお楽しみに!!